――とても、嫌な夢を見たような気がする。
「はぁっ……はぁっ……」
 呼吸を乱れさせながら、メアリーは飛び起きた。
 まだ夜のようだ。隣を見れば、一緒に寝ていたシャーロットも身を起こし、眠そうにまぶたをこすっている。どうやら起こしてしまったらしい。
「メアリー、どうしたの?」
「いや……なんか、嫌な夢見て……」
「かわいそうに。どんな夢?」
「えっと……あれ?」
 夢の内容は憶えていなかった。何か、シャーロットに悪いことが起きる夢だったような気がするのだが。
「……忘れちまった」
「そう。いいわ、悪い夢なんて忘れてしまうに限るもの」
 シャーロットはそう言って笑うが、メアリーはどうにも嫌な予感が拭いきれない。
「なぁ、シャーロット……やっぱり明日、地上に行くの、やめようぜ」
 明日は、この地下監獄に生きる人々が地上へと脱獄する日だった。黎明や血式少女隊、それによく分からないが天使のような存在が、皆を地上へと連れて行ってくれるらしい。
 シャーロットに誘われてメアリーも一度は頷いたのだが、今になってやはり地下に引きこもっていたいという願望が湧いてきたのだ。
「俺たちだけ地下に残って、今まで通り暮らせばいいじゃねーか」
「駄目よそんなの。黎明の人もタイヨウの人もみんな地上に行くんだから。食べ物ももらえなくなっちゃうわよ?」
「そこはほら、俺のマッチがあれば……」
「マッチの無駄遣いは駄目だって言ったでしょ。それに、もうこの地下に核は残ってないはずだわ。マッチを擦っても幻が見えるだけ。幻でお腹はふくれないわよ」
 メアリーも、積極的に餓死したいわけではない。仕方がないかと渋々頷く。
「地上に出たら、きっと楽しいことがたくさんあるわ。さ、もう寝ましょう」
「うん……」
 シャーロットの胸に顔を埋めたメアリーは、不安を忘れてすぐにまた寝息を立て始めた。
   シャーロットは、未来を『視る』ことはできない。
 もしもシャーロットに未来を視る力があったなら、果たして彼女はどうしただろうか。